もう30年以上前の事
進学で上京した私は四畳半一間の共同トイレ、炊事場の安下宿で暮らしていた。
隣の棟には、ギターの上手い先輩がいて、よく拓郎や長渕、千春を弾いて聴かせてくれた。
フォークブームなど、とうの昔に過ぎ世はバンドブーム真っ盛り。時代錯誤ではあったが、
やかましいだけのロックより、アコースティックの音色と、もの悲しさは、田舎ものの私
の心に浸みた。
お金は無かったが、なんとしてもギターが欲しくなった。弾けるようになる自信は無かったが
夢の方が勝った。ひとりで楽器店に行く勇気も無い私は、先輩に付いていってもらい、駅の近
くの小さな楽器店に入った。先輩はYAMAHAのギターをすすめたが、何故か店員さんお薦めの
キャッツアイを購入した。たぶん安かったんだと思う。
他に趣味も無かったので、部屋にお邪魔しては曲を教えてもらっていた。先輩はピックの使い
方が上手く、スリーフィンガーをはじめ、指弾きのところを巧みにピックでやる。
マスターするにはだいぶかかったが、感動ものだった。次第にカントリーブルースにはまって
行くようになったが、こんなに楽しいものならもっと早くに始めれば良かったとも思った。
古い下宿でガンガン弾いていたので怒られもしたが、弾けたときの喜びしか覚えていない。
キャッツアイは私にギターの楽しさを教えてくれた一本であり、未だに忘れることの出来ない
モデルである。そしてこのときのときめきは、今も変わらず持ち続けており、ギターの素晴ら
しさを少しでも多くの方に知っていただきたいと思っている。
物事を始めるのに遅いと言うことは無いと思う。今もギタースクールには老若男女、多くの
方々が通われている。それぞれの方々の歩みは違えども、曲を達成したときの笑顔と充実感
は、あの頃キャッツアイでギターを始めた自分と重なる。
それぞれの方にそれぞれの思い出の一本がある
縁あってウチにやってくるギターそれぞれに、同じように歴史が刻まれている
この先にまたどんなメロディーが待ち受けているのか
ギターを通じて、そんなときめきのお手伝いができれば、この上ない幸せである